2022年11月22日

神戸市企業の挑戦 vol.2 〜海の幸を次世代へ繋ぐ食文化の醸成〜 神戸北野ホテル

レポート

プロジェクト・エンングローブ x  関西学院大学商学部吉川研究室 ESG経営研究チーム

<連載/ESGインタビュー 〜神戸市企業の挑戦〜>
共創からはじまる「地球にいい」ビジネスとは何か?
気候変動や社会格差など多様な課題が山積する現代において、先進的にESG事業に取り組む神戸市内企業にプロジェクト・エングローブが迫ります。

「世界一の朝食」と名高い神戸北野ホテルで、サステナブルシーフードを起点とした食文化の醸成や観光振興による地域活性化に関する取り組みをされている総支配人・総料理長の山口浩シェフ。海洋資源を次世代へ繋ぐ取り組みやその思い、今後の構想について、プロジェクト・エングローブの理念や活動に関心を寄せる関西学院大学の3回生のみなさんが神戸北野ホテルを訪問し、インタビューしました。

 

北野ホテル 総支配人・総料理長 山口浩 氏

世界的料理人ベルナール・ロワゾーに師事。「世界一の朝食」及び料理に科学的解釈を取り入れ幅広く活動をしている。仏国より「農事功労賞シュバリエ勲章」をはじめ「現代の名工」「黄綬褒章」等々受賞。R&C日本副支部長及び世界料理協議会委員として日本のサステナビリティ・シーフード活動の中心的役割を担っている。

Q.サステナブルシーフードを起点とした食文化の醸成に取り組まれている山口シェフですが、フランス料理の道へ歩まれた理由をお聞かせください。

山口:日本には2500種類もの食材がありますが、フランスをはじめ世界の国々には600種類ほどしかありません。内陸部が広いフランスでは、新鮮な食材が手に入りにくく食材の種類も多くないため、創意工夫が求められることが料理人としての面白さに繋がりました。
また、東南アジアは湿気が多いため、発酵調味料など地域に根ざした土着的な素材が多く使われます。素晴らしい食文化ですが、他の国の人にとっては馴染みがなく、食べられない可能性も出てきます。一方、フランス料理には調味料がなく、鍋の中の温度調整によって化学変化を起こして作るため、世界中の人が食べられます。だからこそ、日本の多種多様な食材で、皆が食べられるフランス料理を作ることで、幸せになれる人を増やしたいと思っています。

 

Q.近年、世界では魚が減ってきているにもかかわらず、魚を使った食の需要は増加してきています。どうお考えでしょうか?

山口:食文化の維持と持続可能な環境づくりを両立させる必要があります。例えば、「資源を守るためにマグロを使えない」となると商売になりませんし、食文化を失いかねません。一方で、確かに海洋資源の状況は深刻です。僕自身も海の資源が本当に減っているかということを実際に調査してみると、ひどい状況でした。現在の流通システムは安定しており、注文すれば簡単に食材が手に入ります。日本のレストランは、資源が枯渇しはじめていることに気づきづらいというのが現状です。しかし実際は、このままだと日本の魚がいなくなるところまで海の砂漠化は進んでいるのです。

このような状況に危機を感じて、2018年からサステナブルシーフードに関する活動を開始しました。同年10月には、世界料理評議会にて、ルレ・エ・シャトーの日本支部としてサステナブル・シーフード活動の行動指針6項目を発表、その後「日本のメンバーが使用する魚の80%を持続可能なものにする」というロードマップを作成し、海の豊かさを守るために未利用魚の活用も始めました。

また、兵庫県の海洋資源のサステナビリティーの実現のため、「自然と共存・文化と共栄」を掲げ、ルレ・エ・シャトー本部 副会長のオリビエ・ローランジェ氏と、国際連合での国際講演実績のある石山徹博士(京都芸術大学 客員教授)と共に、国際連携して海洋資源のサステナビリティーに関する学術書を出版しました。

Q.最近少しずつ耳にするようになった「サステナブルシーフード」や「未利用魚」ですが、山口シェフの取組みについてお聞かせください。

山口:「サステナブルシーフード」とは、将来も魚を食べ続けられるよう、漁獲量や環境に配慮した魚介のことです。私たちは「魚はどこからきているのか、その資源の状態はどうなのか」を把握するため、ウニなど一部の魚介を除いた80%の水産物をトレースバックできるようにしました。
また、知名度がなく値段がつかなかったり、漁獲量が少なく流通に乗りにくい「未利用魚」を活用することで、漁業者の水揚げ回数に対する収益向上を図り、必要以上の漁獲をしないよう努めるなど、水産業の働き方改善にも取り組んでいます。

 

Q.日本で、海洋資源を保護するためにはどうするべきだとお考えですか?

山口:積極的に資源保護に取り組んでいるフランスでは、魚を調理する90%以上の人がプロです。逆にいうと一般の人は魚をあまり料理しないんです。しかし、日本の場合は、家庭料理として魚を食べますよね。だから、プロだけが海洋資源の保全活動をしようとしても、フランスのように資源を守れない 。一般の人たちの行動も改善する必要があります。

また、IUU(違法・無報告・無規制)漁業 による海産物についても、日本が輸入しているという現実があります。でもだからといって、IUUがいけないから買わないと判断するのではなく、「なぜそうなっているのか」と考えることが大切です。

認証についても同じことが言えますね。認証があれば全て正しいと思いがちですが、実際のところ認証というものはとても曖昧で、ヨーロッパでは罰則規定がありますが、日本は厳しくありません。認証マークが付いていれば良いということではなく、きちんと日本の漁職文化について知ったり、自分たちでサステナブルな魚とはどういうことなのかを考えることが大切です。要するに、持続可能性とは一体何なのかという本質を自分達で考えないといけないのです。さらにそこに自分たちがしっかりとしたエビデンスやトレースバックを取れるかを考えて、それができるなら食べていいと判断する。そうやって、魚を取る人作る人、それを食べる人の全ての人達と資源が良い状態で循環していくことが僕らの文化の理想だと考えています。

Q.魚の食物連鎖と水質との関係は難しい問題だと思うのですが、今後どのようにしていくべきだと思いますか?

山口:人間由来なのか自然環境が変わったのかをしっかり見極めなければいけないですよね。だからこそ、国など行政が予算を確保し、魚と水質の関係を調べて、それをもとにしてシェフ達が、どんな魚が採れるのかを考えて使用するという仕組みが必要だと思います。

 

Q.山口さんはSDGsをどのように考えていらっしゃいますか?

山口:私は、SDGs=エコという考え方は違っていると思っていて、ビジネスモデルを作るための一つだと考えています。例えば、企業がサステナブルシーフードに向けた活動に対して協力や資金援助をすることでESG投資をしていることを評価され、株価が上がり、資産価値が上がる。このようなビジネスモデルを作るのがSDGsだと思います。「SDGsにビジネスを入れたらダメ」とか「SDGsはボランティア活動だ」といった考えは、持続的でないですよね。ビジネスにすることで持続可能なSDGsが実現できると思います。

 

Q.山口さんが考える今後のレストランのあるべき評価基準とは何だと思いますか?

山口:ここに食べに行くと美味しいし楽しい、そして社会貢献にも繋がってる、ということが基準になると思います。最近は、予約の取れないレストランの予約を取ることが目的になっていますよね。本来は、レストランで過ごす「時間」を楽しむことが目的であるはずです。そういった時間の中で、季節感を知ったり、旬の食材を知ることができる、こういった楽しみ方こそが本質だと思います。

 

Q.これから料理人の方々ができることは、ずばり何なのでしょうか?

山口:1人の人間ができることは30年程度の時間しかないので、僕のできることはほぼ終わりに近いんですよ。今後は、若者たちが働きやすい環境を作っていかないといけない。僕らの時代はフランスに学びに行けば箔が付いてチヤホヤされたんですが、今はそうはいきません。価値観を創り出し生き残る術を見つけてあげないといけない。僕らの受けていた恩恵を次の世代に渡していくこと、これが今の僕のやるべきことで、根本です。

 

山口さんの名言:「世の中には色んな星があって、その星の輝き方ってのは赤色でも黄色でも白色でもどう輝いてもええけど、自分もその星のひとつになって輝ければええと思った。自分らしく生きればええんやって。」

今回のインタビューを通して、関西学院大学生のみなさんから、次のような感想をいただきました。 

貴重なお時間をありがとうございました。インタビューをさせていただいたことで、未利用魚の存在やサスティナブルシーフードについて学ぶことができました。使うことができる資源を廃棄するのではなく、使用することで真の持続可能な社会を作っていけるのだと感じました。
また、サステナブルの定義は自分で考える必要があるという点に非常に感銘を受けました。文化そのものを守るためには、環境への配慮はもちろん、その文化が届けられる価値も持続可能にしていかなければならないことを学びました。そのための価値基準を自分たちで考えられるよう、私たちも意識していきたいと思います。
この度は本当にありがとうございました。


Interview by
関西学院大学3回生 商学部吉川研究室 
ESG経営研究チーム
西野紗奈 ・三澤里佳子 ・伊藤凛
古妻未優 ・小黒翔平

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