2023年2月28日

神戸で見つけた、 “ 地球にいいビジネス” vol.4:神戸から循環農業の未来を創る!〜弓削牧場

レポート

プロジェクト・エンングローブ x  関西学院大学商学部吉川研究室 ESG経営研究チーム

<連載/神戸で見つけた、 “ 地球にいいビジネス” vol.4>
共創からはじまる「地球にいい」ビジネスとは何か?
気候変動や社会格差など多様な課題が山積する現代において、先進的にESG事業に取り組む神戸市内企業にプロジェクト・エングローブと関西学院大学ESG経営研究チームが迫り、インタビューを行っていきます。

関西学院大学ESG経営研究チームとは?
2022 年度よりESG 経営の研究をスタートした「関西学院大学吉川晃史研究室」の学生チーム。 神戸市内のESG に取り組む企業をリサーチし、経営の背景を知ることで、自分たちの気づきや考えを議論し、ESG 経営の課題や重要性を理解し、情報発信をしていく。

弓削 忠生氏
弓削牧場 代表

牧場内で、乳牛の放牧、生乳と乳製品の加工・販売、チーズレストランなどを手掛ける。牛のふん尿をエネルギー化するため、小型のバイオガス装置を場内に設置し、ガスは場内のエネルギーに、ガスとともに生じる液肥は牧場内の畑で肥料として活用する。“循環型酪農”を実践し、都市近郊・都市型農業の可能性を広げる。

神戸の市街地から北へ車で約20分。住宅街にあるトンネルを潜り抜けると、緑に包まれた風景が広がります。静かな草むらが広がり傾斜のある林の中には、自由に草を食んだり寝そべっている牛たちの姿が見られます。ここ弓削牧場では、生乳や乳製品の加工・販売、レストラン運営など酪農生産をベースにしながら、畑でハーブや野菜を育てています。搾りたての牛乳からチーズを自家生産し始め、近隣の住民の方々と共に新たな食の提案をするなど、6次産業化の先駆けとして神戸の酪農業をリードしてきました。弓削さんの挑戦は食に留まらずエネルギーの地産地消にまで及び、乳牛の糞尿をバイオガスと液肥にして酪農を中心とした循環型農業を実践しています。今回私たちは、そんな弓削さんに、これまでの奮闘や現在の活動、自然の資源を無駄にせず、再利用し循環させていく循環型酪農における想いについて伺いました。

三澤:牧場を始められたきっかけを教えてください?

弓削:戦前である1934年に、私の父が新規で新規就農を始めました。父はもともと神戸の町でサラリーマンをしておりましたが、戦時中の食糧確保のために、神戸の箕谷で3ヘクタールの牧場を開いたのです。その後、私が牧場を受け継ぎ、ちょうど万博の年があった年の1970年に、今の神戸・北区へと移ってきました。子供たちには、「負の遺産とならないものを受け継ぎたい」、「農業の新たな形をつくる」という夢がありました。

三澤:個人酪農家として、西日本で初めてチーズ製造を始めたと伺いました。いつ頃からチーズ製造を始められたのですか?

弓削:生乳計画生産が始まって牛乳の価格が下落し、牛乳だけでは酪農家として成り立たなくなってきたので、1984年にカマンベールチーズの試作を始めました。余剰牛乳を活用するため、まだ日本では馴染みのなかったナチュラルチーズの生産に踏み切ったのです。当初はあまりチーズの知識がなかったので、「ザ・ブック・オブ・チーズ」という当時50年前のアメリカの文献を、解体新書のように訳しては試作し、それを基にして、チーズを製造し始めました。

三澤:牧場には何頭の牛がいらっしゃるのでしょうか?
弓削:仔牛を含めて約50頭を飼っており、その中で40頭の牛を搾乳しています。静かな草地や林地で放牧し、搾乳ロボットを導入し牛たちが好きなタイミングで搾乳できるように、できるだけストレスをかけないようにしています。うちの牧場では一般的な牧場のように、牛を買って育てているわけではありません。ここで育てた牛を妊娠させて、子供を産ませる。そしてまたその子供を育てるというように全てこの牧場の中で牛を循環させています。

三澤:子牛を大きくなるまで育てるには、時間も労力もかかるかと思いますが、牧場内で牛を循環させている理由があるのでしょうか?

弓削:他所から来る牛は、うちのような山の牧場で生活すると、斜面に耐えられず牛が皆骨折してしまうんです。生まれたては保育園、3か月から8か月までが小学校、それ以降から2歳までが中学校高校といったように成長期に合わせて、牛たちの過ごす場所を分けています。高一貫教育の牛たちは、365日ずっと山の中で自由に育てているので、足腰が強くなり、健康な成牛になります。時間はかかるけれど全部自分の牧場で育てて、牛も足腰が鍛えられ丈夫に育ち、健康で幸せな環境を作ったほうが良いと思っています。元気に日光をよく浴びた牛の牛乳は美味しいってお客さんは言ってくださいますね!

三澤:削牧場の搾乳マシーンは先進的なマシーンとお聞きしました。

弓削:24時間体制の搾乳ロボットシステムを導入しています。牛たちはお乳が張ってきたと感じたら、自らの意思で搾乳マシーンに入っていきます。最初に搾乳されるミルクは汚れているので、専用のティートカップで取り、発酵槽に送られます。乳量が減ってくると、それ以上絞ると乳腺細胞を痛めますので、自動的にそこで外れます。1本だけ乳頭を絞ることって普通はできないのですが、このマシーンはそれができるんです。ちなみに、搾乳する際にお湯を使っているのですが、そのお湯はバイオガスのエネルギーで作られた熱を使っています。


三澤:素晴らしい搾乳マシーンですね。牛についているタグにはどういう機能があるんですか?

弓削:タグを搾乳マシーンが読み取って、それにより牛がいつ乳を絞ったか全部わかるようになっています。牛の病気や食べた餌の量、残した餌の量もわかるようになっているので、それを基に次の日の餌の量が決まります。餌の無駄遣いもありません。

三澤: 弓削牧場では、乳牛の糞尿を活用して牧場内で再生エネルギーを生成し、循環させているとお伺いしました。

弓削
:高度成長期に伴って牧場周辺の住宅化が進み、住宅街に牛の糞尿の臭いが流れてしまうという課題に直面しました。臭いの元となる牛の糞尿を活用できないかと考え始めたことがきっかけで、バイオガス生産に踏み切りました。実証実験からスタートし、帯広畜産大学と神戸大学との共同研究で、小規模酪農家でも導入しやすい小型タンクの自家バイオガス生産装置を開発に取り掛かったのです。現在は、そのバイオガスユニット施設内で牛の糞尿を発酵させてバイオガスを生産し、施設内のエネルギーとして活用しています。さらに、バイオガスの発酵残渣である消化液は有機JAS資材認証を取得し有機肥料として、牧場内のオーガニック畑で活用しています。この消化液で育てた野菜・ハーブはすくすくと育ち、グッと美味しくなるんですよ!

三澤:牧場内で余すところなく資源を循環させているのですね。バイオガスがどのように作られ、どう活用されているのか、お聞かせください。

弓削:バイオガスユニットに牛糞尿のほか、レストランや畑からでた野菜くずなどを投入し、加温・発酵させてメタンガスを回収します。メタン発酵によって発生したバイオガスを利用して、牧場内で運営する牛舎やビニールハウスのエネルギーにしています。バイオガスのおかげで、LPガスの使用量は10〜15%はカットできており、牧場施設で使用するエネルギーは可能な限り自給を目指しています。

三澤: 循環型都市型農業として神戸から大きな変革を起こされていらっしゃいますね。今後実現されたいことはありますか?

弓削:帯広畜産大学、神戸大学と共同研究で小規模酪農でも導入しやすいよう超小型バイオガス生産の装置を開発してきました。今ではコストを従来の5分の1に抑えられるようになりました。さらに機能を改良し、導入費用を抑えられるように模索中です。街の再開発が進み、都市近郊の中小酪農にとっては難しい局面が多いですが、課題を逆手にとってこれからの農業のあり方を模索しています。神戸の小さな牧場から、酪農に限らず全ての循環農業への未来を明るく照らせるよう、エネルギーの地産地消モデルを広めていきたいですね!


今回のインタビューを通して、関西学院大学ESG経営研究チームのみなさんから、次のような感想をいただきました。 

乳牛の糞尿を活用し、牧場内で循環させて廃棄物がない環境を作られており、持続可能なビジネスと環境づくりに対する弓削さんの熱い想いを体感しました。まさにサステナブルを体現している牧場であると感じました。糞尿からできた消化液を使って育てたお野菜やハーブを使ったお料理をレストランでいただきましたが、味や香りが濃厚でとても美味しく、循環型農業の意義を感じました。他の牧場でもこのような取り組みが進むと神戸からサステナブルな社会にまた一歩近づきますし、他の事業にも影響を与える取り組みだと思いました。

Interviewed by
関西学院大学商学部吉川研究室 ESG経営研究チーム
“プロジェクト・エングローブとともに、神戸で活躍するESG企業を研究中!”
三澤里佳子、西野紗奈、小黒翔平、古妻未優、伊藤凛

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