2022年11月16日

1期生インタビューvol.3 河野由季×和田夏実

第1期生の活躍

有限会社ジョイコーノの専務取締役の河野由季さんと常務取締役の河野亜季さんは、昨年度の「プロジェクト・エングローブ」に姉妹で参加してくださいました。アパレルの会社を運営しながら、パーキンソン病の方を支援するボランティアをきっかけに、「誰もが彩り豊かに生き合える社会」を作りたいという強い思いを持って、パーパスとビジョンを作成。今年1月に行われた東京発表会では、自作のドキュメンタリー映像も交えて印象的なプレゼンテーションを行い、多くの共感を呼びました。そして3月にはNPO法人の申請をし、7月にNPO法人「てんびん」を設立。https://10bin.jp/ すごいスピード感で進んでいます。

今回は、河野由季さんから、NPO法人てんびんの具体的な活動内容や、活動を始めてからの思いの変化などについてお聞きします。また、後半では昨年のエングローブにクリエイティブパートナーとして参加してくださった和田夏実さんも交え、チームのメンバーが多様でクリエイティブであることがもたらす効果についても伺います。

 

河野由季 NPO法人てんびん代表理事
神戸大学経営学部卒業。有限会社ジョイコーノにてオンラインアパレル通販「アニマスジャパン」を設立後、2017年に愛媛県から兵庫県神戸市へ企業移転。2021年から佐古田医師と始めたyoutubeチャンネル制作をきっかけにパーキンソン病当事者の方々やご家族と出会い、社会的弱者を救う福祉のありかたではなく、多様な人々がアートを介して混ざり合い、互いを理解しながら生をポジティブに捉え直すことができる場を創造すべく、プラトーハウス&ラボの構想を始める。

 

和田夏実 インタープリター
ろう者の両親のもとで手話を第一言語として育ち、大学進学時にあらためて手で表現することの可能性に惹かれる。視覚身体言語の研究、様々な身体性の方々との協働からことばと感覚の翻訳方法を探るゲームやプロジェクトを展開。東京大学大学院 先端表現情報学 博士課程在籍。同大学 総合文化研究科 研究員。

 


ーーNPO設立からおよそ1ヶ月半後という時期に、神戸市のNPO団体補助金を活用して、チャリティイベントを開催したそうですね。どのようなイベントだったのでしょうか?

河野:子ども向けの人形劇のイベントです。きっかけは「病気になってから孫が遊びに来てくれない」という、ひとりのパーキンソン病の当事者の方の言葉でした。運動障害、言語障害がおこるパーキンソン病は、小さな子どもたちからすると「見た目がコワイ」「何を言ってるか分からない」「じいちゃんは、前と変わった…」などの感情が出てくることは珍しくありません。その結果、「子どもが嫌がるから行かない」と娘息子の足が遠のき、家族が離れるという現実を知ったのです。
そこで私たちは、「子どもたちに楽しく、そして偏見なく、老いの病パーキンソン病を理解してほしい」という思いでイベントを立ち上げました。子どもたちが大好きな人形劇とアニメーション動画を合わせながら、当事者との対話形式のワークショップを取り入れた、新しいタイプの人形劇を神戸市のデザイン・クリエイティブセンター、KIITOで上演しました。

人形劇とその後のワークショップの様子

 
ーー子どもたちの反応や、周りの大人たちの反応はいかがでしたか?

河野:イベントにはパーキンソン病を知らない10名の子どもと保護者の方々に参加いただくことができました。また、アニメーション作家の村田朋泰監督をゲストに迎え、関西では初の公開作品「春になったら~こぐまのゆーご物語」の同時上映も行い、子供たちが高齢者と共に生きる社会について映像と人形劇を通じて、深く学ぶことが出来たと思います。
また、この時に、兵庫県のパーキンソン病友の会の事務局長がお越しになり、活動理念に共感してくださいました。それがきっかけとなり、兵庫県のパーキンソン病友の会に入会することができました。具体的には、会議のオンラインのサポートをさせていただいていたり、友の会が年4回発行する冊子に寄稿させていただいたりしています。当事者ではない自分たちができることを、着実にやっていけたらと思っています。

 

ーーこのイベントでは他にも重要な出会いがあったそうですね。

河野:パーキンソン病の啓発短編アニメーション映画を制作する計画があり、取材を始めているのですが、このイベントをきっかけに「プロデューサーになってもよい」という方と出会うことができました。制作面だけでなく、資金集めやプロモーションの方法も一緒に考えてくださるのですごく心強いです。

 

ーー今、NPO法人を設立してから2期目にはいったところかと思いますが、活動の中で難しいのはどんなことでしょうか?

河野:私たちはエングローブの中で「誰もが彩り豊かに生き合う社会」という大きなパーパスを作り、それを掲げて活動をスタートしました。ですが、このパーパスとビジョンはかなり大きくて、実現するのは先のことです。当事者や介助者の方にとってはそこまで先は見えていません。「私たちにはそこまで見えてないのよ。だからゆっくり動いて」と、実際、当事者の方に言われました。当事者の方は一歩ずつ歩んでいる。私たちはいろんなクリエイティブな方法で映画や人形劇を見せていこうとしているのですが、当事者の方にとっては目の前の課題がまずあることを忘れてはいけないと感じました。
だから、この大きなビジョンを砕きながら進む必要性を、第2期に突入してますます感じています。これは友の会に入って気づいたことでもあります。第2期は当事者の方々の進むスピードに合わせて、丁寧に一個ずつ、寄り添いながら進めていきたいと思っています。

 

ーー当事者も介助者も、今は病気とは関係ないところにいる方も含めて、多様な人たちと社会を作っていこうとすると、一人一人進むペースが違うから、どこに合わせたらいいのか、本当に難しいですね。

河野:そうなんです。大きなビジョンがあるおかげで、自身が病気と関係ない人にも共感してもらいやすい一方で、当事者の方にどういうふうに寄り添うかというのは、試行錯誤の連続です。時間もかかるので丁寧にしないとと思っています。私も「第1期は何が早いと思わせたのかな」と考えた時に、新しい提案をどんどん出すのはいいけれど、当事者の方々が直面している課題にしっかり向き合えてないところがあったなぁと反省しました。

 

ーー昨年度のエングローブにクリエイティブ・パートナーとして参加していた和田夏実さんが、今はメンバーとして一緒に活動しているとお聞きしました。由季さんと夏実さんは、去年のエングローブの時には違うチームでしたよね。当時はどのようにお互いのことを思っていて、このコラボレーションはどういうふうに始まったのか教えていただけますか?

河野:当初、チームを決める段階では、私たちジョイコーノチームは夏実さんのグループを希望していたんです。でも結果、別のグループとチームを組むことになりました。去年はコロナもあって夏実さんはオンライン参加が多かったのでなかなか会うことは叶わず、今年1月の東京発表会の時に初めてちゃんとお話しすることができました。そのときに、夏実さんご自身の活動を聞かせていただき、「ぜひ一緒にやりましょう」という話になったんです。

エングローブ東京発表会の様子。河野亜季さん(左)と河野由季さん(右)のプレゼンテーション。

 

和田:私は「異言語Lab.」という、手話という言語を起点として、異なる言語を使用する者同士からうみだされるコミュニケーションの試行錯誤から新しいコミュニケーションのカタチを提案していく活動に携わっています。このラボで私は、遊び制作、ワークショップに主に関わりつつ、視覚言語への技術やデザインを通した研究開発を行っています。エングローブには、この異言語ラボの代表である菊永ふみさんと一緒に参加しました。
コロナや他の仕事の兼ね合いでなかなか神戸に行けなかったのですが、東京発表会の時に由季さんのプラトーハウス&ラボのプレゼンテーションを聞いて、場をつくるという目標と、新たな療養のあり方を提案しているのがすごく面白いと思いました。また、私自身がこれまでに盲ろうの方と触覚のツール開発や、全盲の方と音のゲームを作ったりと、様々な方とゲームやおもちゃをつくっていたこともあり、関わってきた活動と親和性があるかもしれないと思ったんです。
妹の亜季さんがクリエイターであることとか、お姉さんの由季さんの行動力とか、熱量を持っている方々と出会うことはより大きな未来を作る上で重要だと思っているので、活動の展開に共感して、何か一緒にできたらいいねという話になりました。

プラトーハウスのイメージ。アート制作の場や交流の場もあり、多様な人々が参画できる場づくりを目指す。

 

ーーそのような経緯があったのですね!その後、具体的なコラボレーションはすぐに始まったのでしょうか?

河野:夏実さんが月に1〜2回関西にくる機会があるので、その時にお会いして意見交換をしました。リハビリの現場にも一緒に行ってもらったんです。そうすると、当事者の方たちも喜んでくれることが多かった。夏実さんは、当事者の方に寄り添って、次の課題を見つけていくことができる人なんだと思います。現場にこれまであまりなかった、可能性を感じさせてくれるアイデアとか眼差しのようなものを、夏実さんは上手にみんなに示してくれるんですよね。夏実さんがこれまで取り組んできた盲ろうの方々との経験を、パーキンソン病の当事者の方々に応用してもらうような感じだったのかなと思います。

 

ーー現場の人々と眼差しを共有するって、一体どんな手法を使ったらそういうことができるのでしょうか?

和田:そうですね。私は今回あまり役割のない人間として、現場におじゃまさせていただくことができてよかったなと感じています。ただ一緒にいる、ということの方が、よりよく出会えたり距離が縮まることがあるように感じていて、リサーチの時も、買い物に一緒に行くとか遊びに行くとか、そういうプロセスの中からの方が圧倒的にいいものが作れたりするんですよね。
異なるからだの人同士が出会うときとか、医療の現場における権威性の関係とか、人と人が出会う時の難しさがあると日頃から感じています。でもそういう時に、たとえば目線を合わせることってすごく大切だと思っていて、シンプルに高さを合わせるとか。また、接するお相手の方も緊張されていると思うので、好きなことの話を伺ったりします。

 

ーーなるほど、ご自身の立場をフラットにして、目の前の人と出会えるようにしているんですね。

和田:はい、リサーチャーとその人というかたちで出会うのではなく、もう少し前の人と人の出会いというか、関係を新たに紡ごうとする上で、人と人が出会うことに違和感がないかを常に考えながらご一緒させていただいています。そうやって一緒にいると、私は、由季さん亜季さんが繋いでくださった方のことを勝手に好きになっているし、一人一人の「らしさ」みたいなものが見えてくる。そうすると、その人らしさがより活きる環境ってなんだろうって考えられるんです。
私は由季さん亜季さんのようにプロジェクトを回していく立場ではないので、ふっとした余白を作りやすいんですよね。色々な物事が動いていくその周りで、一緒に眼差しをあわせることや、様子を伺いやすいと思っています。

当事者の方とお話しする和田夏実さん(左)

 

ーー当事者の方と歩調を合わせることの重要性と難しさについて、さきほど由季さんからのお話にもありましたが、チームの中に夏実さんのような動きをしてくれる人がいることがとても良い効果を生んでいるのですね。

和田:私が活動する場でも、その人自身の中でやりたいという気持ちが湧いてこないと、なかなかうまくいきません。バランスが難しいといつも思います。でも、当事者の方々から信頼が得られたり、当事者の方々の気持ちが動いた時に、社会と繋げていくための方法とか、ちゃんと世界にアピールしていく方法とか、関係資本を作っていくには、大きなビジョンも必要であることや、両軸を回すことの大切さを、今回由季さん亜季さんとご一緒してあらためて感じました。

ーー確かにそうですよね。現場の日々のケアももちろん大事ですが、現場の思いを社会につなげていくことも同時に重要。近いところだけ見ていても、遠いところだけ見ていてもうまく回っていかないんですね。

河野:当事者の人が普段接するのは、医師や作業療法士さんや家族で、どちらかというと病に近いところにいる人たちです。なので、どうしても近視眼的に物事を考えてしまいがちになります。でも夏実さんには、これまでの盲ろうの方たちのプロジェクトの経験を通して、少し遠いところから、パーキンソン病をとりまく社会みたいなものを見てもらえる。そうすると当事者の方も「そういう側面ってあったのね」という発見があり、わかりやすいようなのです。私にはそういう側面はなかったので、今まで「こうした方がいいですよね」と真正面から言ってしまって共感が得づらいところがありました。
希望の持たせ方に関しても、夏実さんが寄り添って「具体的にこういう課題がありながらも、こういうふうにしたら楽しい未来が待ってますよ」って見せてくれるので、本人たちもわくわくしやすいのでしょうね。こういうのも、夏実さんとの協働のなかで気づいたことです。また、当事者の方だけでなく、医療従事者の人にとっても「そういう視点ってあったのね」とアイデアが膨らむきっかけになったりしているみたいなんです。

医療従事者の方や介助者の方とも丁寧にコミュニケーションをとる和田夏実さん。

ーー由季さんのお話を聞くと、本当に夏実さんのスキルは魔法のようですね!そういった物の見方やスキルは、ご自身の経験のなかで徐々に身につけていったのですか?

和田:エングローブのメンターでもある水野大二郎先生の研究室で、インクルーシブデザイン、スペキュラティブデザイン、デザインリサーチなどを学んでいました。この研究室はユニークで、高齢の方々が住むアパートに若い学生が一緒に住んだりして、関係性の作り方とリサーチのプロセスの作り方を体感しながら学んだりもします。そこから彼/彼女らとともにどう語っていくのか?という学びのあり方について、ひたすら3年くらい考え、実践していました。そこでいろんな事例と出会うことで、みなさんのイマジネーションの広がり方が変わったりする様子を目の当たりにして、自分達ももっと先の景色を描けるんじゃないかとか、そういう内発的なエネルギーになった実感があります。当事者の方とどう内発的なエネルギーや景色、眼差しを探っていくか、今回の出会いで非常に多く学ばせて頂いていて、もっと学びを重ねていきたいと思っています。

ーー外からどれだけインプットしても、その人の準備ができていない時には何も変わらない。変わるための準備のプロセスやコミュニケーションからしっかりデザインされているのが、今のお話からよくわかりました。クリエイティブな視点や方法が入るとどんなことが起こるのかなと思ってインタビューさせていただきましたが、体のケアとは別の角度からの視点を与えることができたり、人の心に丁寧に寄り添いながら、共にプロセスを編むことにつながっているのですね。

最後に、今後の活動の予定を教えてください。

河野:アニメーションについては、現在申請中の助成金が通れば、今年度中に予告編を作りたいと思っています。また、来年夏にバルセロナで開催される世界パーキンソン大会でもその予告編を流したいと思って準備しています。
また、来年の来年の11月には認定NPOに挑戦したいと思っています。認定NPOを取ることで信用が大きくなるので、全国の当事者団体にアプローチしやすくなると思っていますし、寄付も集めやすくなると思います。プラトーハウス&ラボの場所づくりについても早く実行したいです。

 

ありがとうございました。
てんびんの活動の応援を、ぜひよろしくお願いいたします!

シェアする
  • Facebookロゴアイコン
  • Twitterロゴアイコン

最新のお知らせ

一覧はこちら