プロジェクトの概要
人と自然が共生し、文化を守り、繋がる未来を目指して、糖度が足りず蜂蜜になれなかった蜜「わせみつ」を用いたミード(蜂蜜酒)の醸造を企画中。
2期生インタビュー 合同会社リタリンク
合同会社リタリンクの代表である岡健一郎さんは、無農薬のお米だけを使った、自然派純米酒の専門店、岡酒商店を営んでいらっしゃいます。エングローブへの参加をきっかけに「Bounce forward 発展的復活」というパーパスを設定し、自然と共生し、文化が守られる未来をつくるための活動を日々続けていらっしゃいます。現在、その一環として、糖度の観点から蜂蜜になれなかった「蜜」を使ってミード(はちみつ酒)を作ることに挑戦中。これにより、養蜂家と酒蔵がともに新しいコミ ュニティを獲得しながら、地域環境の改善に向けたサイクルを実現することを目指しています。
–まずはミードについて、詳しく教えていただけますでしょうか?
岡:はい、ミードははちみつと水を原料に発酵させたお酒で、世界最古の酒といわれています。クレオパトラも飲んでいたといわれているようなものです。実ははちみつというのは糖度の基準がありまして、糖度78%以上のものを指しているのです。そこに満たないものは、厳密にははちみつではないのです。でも例えば糖度77%など、かぎりなくはちみつに近いけれど商品化できないものがあるということを知ったんですね。そこで、それをどうにか活用できないかと思ったのが、このプロジェクトのきっかけでした。はじめはこれをナナミツと呼んでいました。
–岡さんご自身は、この数字についてどのように知ったのでしょうか?
岡:神戸市西区のさとのわ養蜂研究所にいったときに知りました。通常、ビジネスで養蜂をされている場合には、糖度を高めて販売できるようにするのでナナミツはできず、自然農の考えで養蜂をやっている場合にでてくるものなのです。自然農的共生農法を営むさとのわさんのとこでは花粉媒介者としてのみつばちをとても大切にしていらっしゃって、みつばちが必要なみつは取らないんです。余分にできた分だけ取るのですが、その時に、はちみつの糖度に達しないみつも取れるので、それを有効活用したいとおっしゃってたんですね。それで、私のところは酒蔵さんとつながっているので、ナナミツでミードを作るといいのではないかと思ったんです。
–そういう経緯で始まったのですね!そのようにしてミードを作ることが、岡酒商店さんの「Bounce forward 発展的復活」というパーパスとどのようにリンクしてくるのでしょうか?パーパスを設定された経緯から教えていただけますか?
岡:今、日本には1550ほどの酒蔵があると言われますが、蔵で醸すすべての清酒の原料米を無農薬栽培米で作っているのは、たった2つの蔵だけなんです。ですが、全てとはいかなくても、ほかにも同様の思想をもつ酒蔵さんもいくつかあります。このような酒蔵さんは、無農薬栽培農家さんからお米を買っていたり、自ら無農薬米を作ったりしていて、生物多様性を実現している田んぼを大切にしていらっしゃいます。それは地域の里山の復活に繋がり、ひいては次世代へと環境を繋ぐことになるのです。
–なるほど。そういう酒蔵さんが増えていくことによって、地域の環境がどんどん良くなっていくわけですね。
岡:そのとおりです。そしてこの流れのなかに、先ほどお話ししたような、みつばちと共生する自然農的養蜂家が加わることで、里山の復活がさらに促進されるだろうと思ったのです。ここには稲作とか、お酒の発酵文化とか、さまざまな生物との共生というようなことも入ってくると思います。この流れを具体的に考えてチームで議論する中で、”Bounce forward” というキーワードが出てきました。つまり、いろいろな問題があった後、過去の良かったときにそのまま戻ることを目指すのではなく、新しい未来の良いスタンダードを作っていくことを目指すべきなのではないかと。日本語では「発展的復活」という言葉がしっくりきたので、英語と併記して使っています。
–パーパスの背後にある課題や思いがよくわかりました。今年度は、ミードづくりに向けて具体的に動かれたと伺っています。
岡:はい、このパーパスを実現するためのプロジェクトの1つ目として、「兵庫わせみつミードプロジェクト」を始動しました。最初はナナミツという言葉を使うことを検討していたのですが、権利の問題があり、最終的に「わせみつ」という言葉を使うことにしました。今年はまず、ミードの醸造蔵となる山名酒造さんの冬季醸造の工程の撮影にいきました。主に自然派のアピールとなる木桶の醸造中の撮影を行い、プロモーション素材とするためです。その後、ミードを醸造している栃木県の天鷹酒造さんに、今回ミードの醸造を委託する予定の山名酒造さんをお連れして具体的な醸造工程を見せていただき、現場同士の技術供与をしていただいきました。8月には、わせみつを提供していただく養蜂家のさとのわさんを山名酒造さんへお連れしました。そこで改めて今回の経緯の説明を行い、山名酒造さんに、さとのわさんの思いを理解いただくことができたと思います。
–すでに、醸造方針の検討なども行ったのですか?
岡:2024年度のうちに販売できるように、醸造検討を進めています。量としては720ml換算で500本を造ろうと思っています。米麹を少し加える予定なのですが、その麹用自然栽培米も決まりましたし、火入れと瓶内二次発酵と生の3種類で売り出すことなども、具体的に決まってきました。
–来年度の販売が楽しみですね。具体的な顧客像などももう固まってきているのでしょうか?
岡:私としては、商品企画や販促のところが弱いので、そこにAIを使おうと考えています。生成AIをうまく活用すると顧客解像度を高めることができるので、今、実験中です。
–それにしても、およそ1年で素晴らしい進捗でしたね。そもそも、岡さんがエングローブに参加したきっかけは何だったのでしょうか?
岡:エングローブ1期生で、NPO法人てんびんを立ち上げられた河野由季さんが、もともと僕のところのお客さんだったんです。それで、こんなプログラムがあるから、岡さんぜひ参加すると良いよと勧めてくれて、当時の神戸市の担当者だった長井さんに繋いでくれたんですよね。
–なるほど、河野さんは経営者同士の知り合いではなくて、お客さんだったのですね。そういうところから広げてもらってありがたいです。実際、参加してみていかがでしたか?
岡:考えていたことを言語化していくプロセスがとても大変でしたけど、よかったです。例えばリ・パブリックの田村さんは、僕が言ったことを短く簡潔にパッとまとめなおしてくれる。その連続が、このプランを作り上げたといっても過言ではないと思います。
–クリエイティブ・パートナーとはどのようなコミュニケーションを取られていましたか?
岡:去年のチームには、クリエイティブなフランス人が二人いてくれました。僕自身、クリエイティブな面が弱いので、そこを補ってもらえてとてもよかったと思います。プレゼンテーションのクオリティを上げてもらいましたし、パーパスを決めるときにも、彼らの発想力や知識はとても頼りになりました。
–今年度も、クリエイティブ・パートナーとの共創は続けられたと伺っています。今年のパートナーとはどのような部分で共創されたのでしょうか?
岡:今年は、映像編集を得意とする天野さんにしっかりと関わってもらうことができました。彼は去年も同じチームだったのですが、チームに加わったタイミングが遅くて、様子見で終わってしまったようなところがありました。でも去年のプロセスに参画して頂いてたおかげで、今年ははじめからご一緒することができたんです。酒造とのやりとりにもついてきて撮影を担ってもらったり、現場を見たうえで意見交換ができたり、とても有意義な関係を築くことができ、ありがたかったです。
–エングローブの参加企業には、多様な業種の方々がおられますが、なにか刺激を受け合ったりコラボレーションしたり、そういうことは起きていますか?
岡:昨年の3月に、同じ2期生のみなと観光バスの松本さんにバスをお願いして、酒蔵バスツアーを実施しました。新酒の時期に酒蔵を巡るというものなので、年に1回しか企画できてないのですが、去年はすごい人気であっという間に席が埋まりました。今年はバスを大型にグレードアップしましたが、それも満席となり大好評でした。
–日本酒の繁忙期とミードの繁忙期がちょうどよくずれるというのも良いですね。これからの酒蔵さんのいろんなビジネスの可能性がひらきそうで、楽しみです。今後の展望を教えて下さい。
岡:まずは来年度、わせみつミードをしっかりと作って売って、新しい消費者に届け、環境にも貢献できるモデルを作りたいです。そして将来的には、このコミュニティモデルを世界各地に展開したいと思っています。それによって、様々な地域の環境が良くなり、土地の文化が守られる未来が作られることを願っています。
大きな野望を抱きつつも、繋がる人とつながり、着実に歩みを進められている岡酒商店さん。今後の展開を楽しみにしております。
プロジェクトの概要
人と自然が共生し、文化を守り、繋がる未来を目指して、糖度が足りず蜂蜜になれなかった蜜「わせみつ」を用いたミード(蜂蜜酒)の醸造を企画中。
これまでの活動
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- 2022.08
- プロジェクト・エングローブ参加
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- 2023.01
- 東京発表会
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- 2023.06
- 兵庫の酒蔵を連れて栃木の酒蔵を訪問
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- 2023.08
- 養蜂家さんと提携
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- 2024.05
- 商品企画・販促企画を決定
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- 2024.08
- 醸造予定
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- 2024.10
- 発売予定