
2期生インタビュー 垂水重機
神戸市内で土木建設業を運営する株式会社垂水重機さん。50年以上にわたって、公共工事をふくむ様々な土木事業に携わっていますが、数年前からは、建設機械を必要とする芸術作品の制作も行っています。いわゆる「3K」と呼ばれる労働環境で、慢性的な人材不足に悩みながらも、まっすぐな思いでいつも場を盛り立てる代表取締役の水上さん。昨年度、エングローブに参加して、チームのメンバーとともに「今を生きる土台を作る」というパーパスを設定しました。
–このパーパスの設定にはどのような思いが込められているのでしょうか?
水上:私たちの仕事の場合、現場作業員は騒音や粉塵などのクレームの窓口になることが多いんです。公共財産である工事をしているにもかかわらず、世間からは「うるさい」とかよく怒られるんです。現場の監督さんにも「なんかあったら謝ってな」と言ってあって、作業員は卑屈な気持ちで仕事をしているんです。
–このようなクレームに繋がりやすい要因はどこにあるのでしょうか?
水上:色々あると思うんですけれど、住民を置き去りにしたインフラ工事というのがあるように思います。地域の人たちは、自分たちの暮らしに必要なインフラであるにもかかわらず、どこか他人事という場合が多いです。だからクレームに繋がります。私はもっと、地域住民と土木事業者が対等な立場で協力しながら、地域を一緒に作っていけるようになるといいなといつも思っているんです。
–水上さんたちは、どのような未来を描いたのでしょうか?
水上:「ひとりひとりが誇りをもって生きていける未来」「多様な人々がそれぞれの力を発揮できる場がある未来」、そして「地域住民と土木事業者が対等な立場で協力し、共有財産を自ら整備する未来」の実現を目指したいんです。
水上:こういう未来を実現するための事業イメージも考えてみました。垂水重機だけでは、特にこの図の右側の、地域の人との協力の部分の実現が難しいので、NPOなど別法人を立てることを考えてみました。その二つの輪ができることによって、ひとりひとりが誇りをもって生きていける未来に繋がると思うんです。
–まず垂水重機さんの方では、従業員のやりたいことを応援できる仕組みを作って、従業員の方に多様な力を伸ばしてもらえるようにするのですね。実際、アートの制作なども請け負うようになって、従業員の方がやりがいを感じたりされていますか?
水上:刺激を受けて、考え方が変わった人もいると思います。道路を作る以外の楽しみを薄々感じてきている社員もいます。
–この二つの法人は、どのように関係していくとよいのでしょうか?
水上:それぞれの特性を活かしながら、市民と土木事業者がともに考え協力しあい、地域の『共有財産』を整備する取り組みを始めます。その時間を通じて、お互いの生き方や多様な価値観を認め合い、それぞれがその土地への誇りを持って暮らしていく未来の実現を目指すというのがいいのではないかと思います。
–今は、土木作業の方と地域住民がともに何かをする時間がそもそもないですよね。もっとみんなで一緒に地域を作っているという意識を持てたら、たしかに少しずつでも状況が変わっていきそうです。

–エングローブには、どのようなきっかけで参加されたのでしょうか?
水上:以前、大分のアート作品制作の時にお世話になった松田さんというアートマネージャーが神戸に戻ってきてて、「こんなプログラムあるから、社長、ぜひ参加してみませんか?」と話を持ってきたんです。それで、松田さんも垂水重機のメンバーとして参加してくれるというので、思い切って二人でプログラムに挑戦することにしました。
–実際、エングローブのプログラムに参加してみていかがでしたか?
水上:とても激的な一年でした。月に1〜2回ワークショップがあって、次までにこうしてくださいと毎回宿題が出るので、忙しい中でも色々考えてすごく盛り上がったんですよね。クリエイティブパートナーのみなさんやメンターのみなさんと話すうちに、どんどん思いが募っていきました。
–大変なことはありましたか?
水上:エングローブのプログラムが目指す「サステナブル」に関しては思うところが色々あったのですが、あるときメンターの鳥居さんに「思いが大切なんだよ」と言われたんです。手法とかは二の次でいいと。そう言ってもらえて安心して、自分の中で意思を固めていった一年でしたね。
–2年目はいかがでしたか?
水上:2年目は正直、日々のことが忙しすぎて、次を考えなければと頭をよぎるけど、会社の運営も資金繰りもシフト作りも基本的には自分がやっているので、なかなか手が回らなかったです。そうしているうちに、自分の思いの実現というより、自分は誰かの思いの実現に寄り沿うパートナーとしてやるのがいいのではないか?と思うようにもなりました。
–アーティストの島袋さんとは何度も共同制作をされていて、実際、水上さんは、島袋さんが思い描く世界をパートナーとして形にしていらっしゃいますよね。
–今年度も春にはヨーロッパにも制作にいかれていましたし、冬には千葉で制作されていましたね。
水上:はい、木更津のクルックフィールズというところで「100年後芸術祭」というのが2024年の3月から5月にありまして、島袋さんの作品が披露されます。ショベルカーを動かして、その制作を請け負っています。
–制作のプロセスで、印象的なことがあったと伺いました。
水上:アーティストの小学生の娘さんが制作現場に来て、僕たちの動きを見ててくれたんですよ。土木の仕事って、本当はみんなが生きる土台を作っているのに、普段世間から冷たい目で見られている。この娘さんにも色々話をしたんですよ。「こういうふうに道ってできるんだよ」とか、「こういうふうに工事するから、蛇口を捻ったら水が出るんだよ」とか、「こういう人たちが働いてるんだよ」と。そうすると彼女は「そうなの!?知らなかった!」という反応をしてくれるんですね。それをみて、私は彼女にこの話ができてよかったと思うし、こういう小さいところから初めていきたいと現場で思ったんです。だから、「こうやったらこうなる」という理論的なことではなく、関わる人の気持ちを少しずつでも変えることが先決だと思ってます。大きな変化ではなくて、もっとミニマムなところ。例えば私、松田、地域の子どもたちから始めないと実際は何も変わらないのかなと、現場で感じました。
–水上さんと一緒にエングローブに参加してくれた松田さんはアートマネジメントのバックグラウンドをお持ちで、現場のアーティストと、アーティストのビジョンを形にする制作者と、観客や地域の人々を繋ぐことをおそらくよく考えていらっしゃいますよね。松田さんも今回一緒に現場に入られたと伺っています。どのようなことを感じましたか?
松田:少し話が戻るのですが、今年度、どう進めていこうかという話になった時に、私自身がもっと社長のやっている業界のことを知らないといけないと思ったんです。一時、ダンプの運転手の免許を取りに行くかという話も出て。結局それは私自身が踏み切れなくて、やらないことになったのですけれど。もっと社長のそばで、業界で自分が身をもって体験するようなことをやってみたいとずっと考え続けているんです。今回、制作現場にご一緒して、同じ時間を過ごす中で見えてきたことが色々ありました。また、今回は現場作業員がやるようなことを体験させてもらいました。これを毎日やり続けるのって、本当に大変なことだって思ったんです。
松田さんが土木現場のことを身をもって知るというのは、今後、多様な価値観の人の間を繋ぎ、水上さんが描いた未来への道を補強してくれるような気がしますね。日々の生活が滞りなく進むように環境を整えるインフラ業をしながら、同時に100年後のことを本気で考え、そのビジョンの実現も担う垂水重機さん。働く人がみんなの生きる土台を作っていることに誇りを持って、やりがいをもてる未来の実現に向けて、着実に歩んでいます。これからも応援しています。
プロジェクトの概要
私たちの暮らしを支える土木事業者と市民がつながり、多様な価値観や生き方を認め、ひとりひとりが誇りを持って生きていける未来を検討中。
これまでの活動
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- 2024.08
- プロジェクト・エングローブ参加
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- 2023.01
- 東京発表会
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- 2023.05
- ヨーロッパでのアート制作に従事
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- 2024.02
- 千葉県でのアート制作に従事